京菓子辞典
ジャンル別 菓子器関連 | ||
菓子器
かしき |
茶に使用する菓子器は、形も色彩も雅趣に富んだ、見るからに好い感じのする器である。
菓子器としては、利休以来各宗家のお好みになる器のほか、唐物のその他の器も使用する。 大別すると、縁高重・鉢形・盆形であり、形は大小種々で、種類もかなり多くある。 あまり細工に過ぎたもの、また美術品は不調和なので、お祝いごと以外には好みとしては数も少ない。 菓子器も取合わせが第一で、色彩と形はその中に盛る菓子との調和を十分考えて使用するのが必要で、どんな良い菓子でも、器との配色が悪いと、器も菓子もともに引き立たないことになってしまう。 季節の使い分けが大切である。 茶には割合、菓子皿を使用することが少なく、好み物もない。 これは、使用できないというのではなく、唐物・国焼など、品格のある皿を使用するのも、取合わせとしては、亭主の力量といえる。 菓子器には次の種類がある。 主菓子用 一 菓子椀 一 縁高 一 銘々皿 一 食籠(じきろ) 一 菓子鉢 干菓子用(惣菓子器) 一 高杯(たかつき) 一 平盆 一 堆朱・堆黒 一 盆 一 振出し 好みの菓子器としては以下のものがある。 利休好 菓子椀・菊絵縁高・真塗黒縁高・惣菓子盆・真塗四方盆・松ノ木四方盆・矢筈盆・山崎盆・菱盆・糸巻食籠 宗旦好 松の木盆・一閑ヘギ目四方盆・四方紙撚縁菱銘々盆・桜盆・八角食籠・五角盆・菊銘々盆・葉入角銘々盆・菓子椀・高杯盆・椰子菓子器・一閑ヘギ目縁高・折タメ黒丸食籠 <裏千家> 仙叟好 黒縁高・溜縁高・七宝透縁高・黒角丸縁高・中円鉋目菓子盆・松鶴蒔絵菓子椀 常叟好 猿尻菓子椀・根来写独楽盆・中丸銘々盆 六閑斎好 六角縁高・六角台足付・楽金溜手付・菊菓子器 竺叟好 一閑内朱四方盆 一燈好 白楽六角・杉木地錫縁四方盆・菱盆 不見斎好 雑木盆 認得斎好 五色独楽盆 玄々斎好 福寿食籠・松唐草食籠・輪花盆・糸巻銘々盆・野々宮菓子器・ツボツボ松葉絵雑木盆・菱盆・桐角上盆・菓撰盆・瓢菓子器・四方盆 円能斎好 一閑縁低菓子器・白石籠・美寿美盆・箕・渦模様独楽盆 淡々斎好 松皮菱透縁高・桐唐草縁高・捻梅盆・八紘盆・雪花盆・七宝糸巻盆・内朱輪花盆・叩塗若狭盆・竹ツボツボ・半開扇盆・独楽高杯・朱亀甲盆・宝珠盆・銀平目八角盆・桐四方盆・花鳥蒔絵朱縁高 鵬雲斎好 四季七宝蒔絵盆・青貝四方盆 <表千家> 覚々斎好 桜盆(小)・神折敷菓子器(内朱)・黒溜四方銘々盆・操貫盆・朱網絵食籠 了々斎好 カラト面朱二重八角食籠・朱打合せ盆・一閑独楽菓子器 吸江斎好 黒折タメ独楽菓子器・春慶塗雪花四方盆 碌々斎好 一閑網絵縁高・一閑洗朱縁高・一閑扇形縁高(黒爪紅)・一閑小丸食籠・一閑折タメ四方小食籠・一閑独楽菓子器(青漆爪紅)・摺漆独楽菓子器・桜盆(大)・大菱盆・一閑折タメ四方食籠・ミル貝食籠・グリ溜食籠・打合せ銘々盆・桜銘々盆 惺斎好 一閑桃食籠(金蒔絵、外黒、内朱)・紅葉張込八角食籠(外溜、内黒)・青漆丸食籠(青漆、内黒、切面朱)・西芳寺紅葉張込丸食籠・捻梅菓子器(木彫、外黒、内朱)・住吉神器模菓子器(朱、住吉神社松葉張込)・一閑朱ヘギ目四方盆 紅葉張桜盆(黒)・唐物模菱盆(黒、鏡朱)・溜糸目八角食籠(内銀ヤスリコ塗ミル貝蒔絵)・鶴菱食籠・利休形御菓子椀台(菩提樹の実張込)・青貝雪花四方盆・青貝蝶唐草四方盆・雛用菓子器(外黒、内金箔押)・鎌倉彫食籠・萩木瓜形食籠・薩摩木瓜形食籠 即中斎好 一閑朱捻梅食籠・一閑縁朱丸盆・溜ロクロ目食籠(内熊笹蒔絵)・折タメ丸食籠(外朱、内黒、甲内丸青漆、面黄)・縁高(黒爪紅)・網絵大丸食籠(黒網絵、溜、内黒挽物)・網絵大丸食籠(朱網絵、溜、内黒挽物)・青漆八角菓子盆(面黄) 菊蒔絵八角菓子器(錆塗銀縁)・丸独楽つなぎ菓子盆(黒挽物、金蒔絵)・溜五角銘々菓子器・桜食籠(折タメ)・芽張柳縁高・芽張柳丸食籠・白竹張四方盆・色漆糸目独楽菓子器 <石州流> 石州好 糸目銘々盆(挽物、総朱塗)・春慶塗糸目銘々盆(裏黒塗)・蘭の絵銘々盆(総うるみ塗、朱蘭の絵)・角桐の絵銘々盆(総朱塗、一文字桐の絵)・土器形菊銘々盆(黒塗、高蒔絵)・惣菓子器(朱塗、黒漆絵角にしのぶの絵)・糸目惣菓子器(内外朱塗) 糸巻引重(黒塗蓋付、黒塗、朱しのぶの絵)・惣菓子器(きぬた粉黒塗、朱しのぶの絵)・御好花形菓子盆(総朱塗、裏黒塗)・菊盆・鉄鉢形惣菓子盆 |
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菓子椀
かしわん |
朱塗・縁金のやや低い椀で、口切りの茶事とか菓子茶事(飯後の茶事)など、正式の茶事以外には最近はあまり用いない。これは主菓子を容れる銘々菓子器である。 |
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縁高
ふちだか |
茶事などの正式の場合に用いる。 五重が一組となり、蓋一枚となっている。 利休形といわれるものは、五寸角(約15.2cm)で角切りになっていて、高さ一寸五分(約4.5cm)の折敷の縁の高い器。真塗、直塗である。これはどんな菓子でも合う器である。 他に溜塗・春慶・飛騨・一閑などがあるが、これらは少し略式で、寸法もいくぶん相違がある。 庸軒好みの溜塗縁高のように、きわめて縁の低い浅いものもある。 ■ 縁高の扱い方 客五人に五重の縁高ならば、各重に生菓子を一個ずつ入れるが、六人以上の場合は、最上部へ二個、または人数が増えるたびに上の重から次の重へと一個ずつ数を増し、盛り付ける。 しかし最下部は正客用であるから、どんな時でも一個に限る。縁高を五つ重ね、上の重に蓋をし、その上に客の数だけ黒もじを形よく並べて客に出す。 縁高の綴じ目は、角型の時は向こうにいくようにして扱う。縁高は風炉の季節には露を打ってから菓子を盛り付けて出す。 縁高が出た時は、もっとも下の重が正客の分となるので、次客以下、下の重から順次取る。正客は、縁高の取るべき重(一番下の重)を自分の座っている畳の縁外正面にそのまま置いて、 上の重を重ねたまま両手で持ち、左へ回し、四隅を同じようにいざらせておき、黒もじを一本取り、自分の取るべき重(一番下)に入れ、いざらせた縁高は重ねたまま次の客との間へ正しく送る。以下同様にする。 空いた縁高は順次下座の客に送るが、自分の重は順次上に重ねておく。末客は蓋をして、送られてきた空の縁高の上に載せると運び出されたときのようになり、これを給仕口、または茶道口へ返しておく。 菓子を取った後、縁高は拭って返すのが本来だが、蒔絵があったり、時代の器の場合は、押える程度にしておくほうがよい。 |
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銘々皿 めいめさら |
縁高を略したものであり、同じ形の物で、各人にそれぞれ出すもの。 直径約五寸(約15.2cm)ほどの揃ったもの。 古会記などに「メンメン」とあるのがそれである。 南鐐・砂張・陶磁器・漆器などがある。 黒もじを一本ずつ添えて出す。 立礼には銘々菓子器が適する。 ■ 銘々皿の扱い方 一客分の菓子を一つの皿に盛って出すもので、銘々に黒もじを添えて出す。 客は両手で銘々皿をおしいただいて、懐紙を出し、黒もじを使って菓子を懐紙に取る。銘々皿を懐紙で清めてから拝見するが、拭う注意は縁高と同様である。銘々皿を重ねるときは懐紙を敷いて重ね、傷がつかないようにして返す。 |
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銘々盆 めいめいぼん |
⇒ 銘々皿 |
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食籠 じきろう |
もとは書院荘(しょいんかざり)の一具で、『御飾書』『君台観左右帳記』などにも荘られた図がある。蓋のある菓子器であり、客数だけ盛り込んで出すものである。形には大小高低があり、一定しない。菓子を入れ、蓋の上に一膳の菓子箸(黒もじ)を添えて出す。
唐物漆器や、青貝・堆朱・堆黒、また籠地などで立派なものもあり、重食籠もある。 和物ではそれらの写しや鎌倉彫・蒔絵のものあり、庸軒の食籠などは代表的で、宗旦好み内朱八角食籠は重ねで掛子(かけご)がついている。 陶磁器では、支那の万暦年製から乾隆へかけてのものや、また染付・交趾(こうち)・宋胡録(すんころく)などもある。日本でも多く作られ、楽焼も数多くある。食籠はだいたい蒸し物のような温かい菓子を賞味する時用いる。 表千家では菓子器として主に使用されるので、好み物も多数ある。 ■ 食籠の扱い方 食籠には塗物と焼物との両種があり、お菓子によってみはからって用いる。 箸として黒もじ二本を添える。食籠はだいたい蒸し物の場合に適している。その場合、いちいち蓋をして取り回す。蒸し物以外の場合は、食籠の蓋だけ先に取り回し、末客が預かっておき、食籠の身のほうが回ってくれば菓子を取り、末客は蓋をして返す。 掛子付の食籠は、下の重に主菓子を入れてあるので、まず箸を懐紙に預けておいて蓋を取り、掛子をはずし、下の重の主菓子を取り、それに蓋をして、箸を拭って、箸をのせて次に回す。つづいて掛子の干菓子を取り、次へ回す。 菓子を取る時、食籠の蓋は自分の右横に取り、蓋はたいてい、表を下に置く。ただし蓋の表に傷つきやすい細工模様があれば、その他適宜にうつ向けて置く。 裏千家では歴代の好み物以外食籠はあまり使いない。 表千家は食籠の好みも多く、よく使用される。 |
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菓子鉢 かしばち |
一般的に使われる盛込鉢である。この場合、主菓子を客の数だけ盛り込んで出す。
唐物・和物両様あり、唐物では天竜寺青磁・七官青磁の端反鉢(はたぞりばち)や、桝形鉢・輪花鉢・平鉢などがあり、色彩の温雅さが賞美される。 染付では兜鉢(かぶとばち)や芙蓉手(ふようで)など、模様の変化は多く、祥瑞(しょんずい)も腰捻・四方・その他、名品が少なくない。色絵なども呉須赤絵が一番多く、蓮鷺・珠取獅子・魁鉢などがある。 朝鮮では雲鶴青磁を初め、御本刷目(ごほんはけめ)・粉引(こひき)・三島・井戸脇などがある。 和物では仁清は少ないが、乾山には秋草や草花の透鉢(すかしばち)が代表的で、それを写した仁阿弥は乾山写しの桜と楓を描いた雲錦鉢・雪笹の手鉢があり、保全その他、京名工の作ったものもある。 その他、黄瀬戸あやめ手鉦鉢(どらばち)・織部・古九谷・古伊万里・唐津・萩などの国焼物が豊富である。夏の極暑の時季には、ギヤマンの切子鉢(きりこばち)なども涼感を呼ぶので、よく用いられる。 ■ 菓子鉢の扱い方 菓子鉢には、一種の菓子を一人一個あて、客数だけ盛り、黒もじの箸を用いる。菓子鉢を出されると、正客はこれを受けて、右手上座のほうにあずかっておく。亭主から「どうぞお菓子を」と挨拶があり、正客は一礼してこれを受け、 次客に「お先に」と一礼をして、両手で菓子鉢を持ち、おしいただいて(この時、菓子鉢は高く持ち上げずに、からだを低くする)菓子鉢を縁外に置き、懐紙を出し、縁内膝前に、わさを手前にして置き、菓子鉢に左手を添えて、箸で菓子を懐紙に取る。 菓子を取ったら、箸を上から持ちなおし、懐紙の上の角を折って、箸先を挟み、清める。箸を懐紙の上に置いたまま、菓子鉢を拝見するが、中の菓子が乱れないように、静かに菓子鉢を拝見する。拝見が終わったら、箸を菓子鉢の上にのせ元にもどし、次客に送る。次客以下も同様である。 |
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高杯 たかつき |
高い足のあるもので、多くは漆器で蒔絵のもの、無地のもの、木地三宝のようなものと、古い時代から伝わったものであるから数多い。 しかし茶の湯のほうでは、貴人扱いの他はあまり用いられない。一般的なものではない。高さ五寸(約15.2cm)以下の低いものは、一般に用いられる。 |
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平盆 ひらぼん |
螺鈿(らでん)の、青貝で細かく楼閣山水・人物・花弁などの図柄があるもの。形は四方・丸輪花(まるりんか)・八角・十二角などいろいろある。 |
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枡 ます |
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堆朱・堆黒 ついしゅ ついこく |
花鳥模様が多く、その中でも竜紋を得意とした堆黄は、数少ないので尊重される。 その他、紅花緑葉・存星(ぞんせい)・金馬(きんま)などがあり、それ以外に無地のものでは若狭盆・雑木盆・松ノ木盆などある。 |
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盆 ぼん |
独楽盆(こまぼん) シャム製で、木地の丸盆に色漆で輪環状の模様を表わし、黄漆のはいっているものを尊ぶ。裏面の木地の味とか、ハツリ目など賞翫される。 矢筈盆(やはずぼん) 四角形で矢筈に切り込んだ縁がついている。羽田五郎その他の作がある。盛阿弥・道恵・道志・宗哲などの名工の手のものが多い。一閑は軽快な点が大変喜ばれる。籠地もあり、不入の張貫盆(はりぬきぼん)などもある。 砂張盆(さはりぼん) 南蛮砂張と朝鮮砂張があって、形は縁のある青海盆・輪花盆・掛合盆などあり、これを漆器で写したものもある。 その他宗家の好み物も多数ある。また吹寄せなどを盛る箕・籠の類、竹とか瓢とかおよど干菓子を盛るに足るものは使用できる。 宗旦好みの椰子の菓子器もおもしろい。その時代を思えば珍器であったであろう。 |
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振出し ふりだし |
茶箱とか茶籠用のもので、金平糖や砂糖豆・霰・納豆のような極く小さい菓子を入れるもので、口はトウモロコシの皮の栓をする。 茶会の趣向で、惣菓子器代わりに振出しを用いるようなこともある。 なお、時には待合の香煎入れにも共通して使われる。振出しは青磁・祥瑞・染付・織部・唐津・備前など、各種の焼物でできている。 |
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黒もじ くろもじ |
菓子に添えて出す楊枝で、黒もじの木の枝で作る。長さ六寸(約18.2cm)、上部は巾二分五厘(7mm)、中ほどは二分(6mm)くらい、先のほうは五厘(1.5mm)。縁高に添えて出す時には、一人に一本ずつ出す。昔は亭主みずからが黒もじの枝を削って作ったものである。 黒もじの木は楠科の落葉灌木で、高さ2mあまり、樹皮は緑を帯びた黒色で、黒い斑がある。葉は長楕円形、雌雄の木が別々になっている。春、葉が生える前に淡黄色の花が咲く。果実は小球形で、黒い木に香気がある。鉤樟・鳥樟などの異名あり。 この黒もじの葉や小枝を蒸溜すると、油が採れる。芳香のある黄色の油で、香水・石鹸・化粧品などの香料にする。黒もじの他に、白もじ、青もじなどがある。樹皮が黒もじに比べて白味、青味が勝っている。近似種には、毛黒もじの木がある。 使い方としては、黒もじはあらかじめ水につけておき、菓子器に添える直前に軽く拭き清めて添える。これは清浄さを見せるためである。客を迎える時は、そのたびに新しいものを使う。使ったあとの黒もじは、持ち帰る。 二本で箸として使う場合は、七寸(約21.2cm)か八寸(24.2cm)の長さのものがあり、菓子鉢の大小によって釣合いのよい方を使う。あらかじめ湿しておく。客は右手で箸を上から取り、左手で下から受けて、右手で持ちかえて菓子を取る。 この時、黒もじの皮の部分以外は持たないようにすること。 |
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惣菓子器 そうかしき |
⇒ 干菓子器 |
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干菓子器 ひがしき |
■ 干菓子器の扱い方 主菓子に続いて干菓子が出された場合、正客は惣菓子器を主菓子鉢の向こうに置く。惣菓子器は適当な時を見計らって取り回す。器をおしいただいて、縁外に置き、 懐紙を膝前に出し、左手を器に添えて、懐紙の上に干菓子をそれぞれ取り、指先を清めて、器に盛った菓子がくずれないようにして拝見する。 末客は菓子を取ると、惣菓子器を正客の前まで持っていく。(大寄せの茶会などでは、向きをかえて前に置く。) |
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参考文献:『茶菓子の話』(淡交社)、『カラー 京都の菓子』(淡交社)。すべて鈴木宗康先生著